水屋の再生1

 このお仕事の話の始まりは、知り合いの工務店からの電話でした。
「○○神社の水屋の補修なんだけれども、その神社の氏子になっている工務店がどこも出来ないと言っている・・・。うちもいますぐは忙しくて出来ないから、代わりにやってもらえないだろうか。」
電話の内容からするとそんなに時間がかかるものではないと考えて、その工事を請けおうことにしました。

 後日その現場を見に行って分かった、詳しい事情はこうです。
神社へ仕事に来たコンテナトラックが用事を済ませて帰る際、バックして荷台部分で水屋の屋根を押してしまいました。そして、この水屋が築数十年ということもあり柱の根元などもかなり痛んでいたのでしょう、隣の公民館に寄りかかるようにして倒れてしまったとのことです。
 私達が見に行った時には、倒れたままでは危険ということですでに曳家さんが元の位置まで仮に戻されていました。

 水屋の構造はシンプルな四方転びの頭貫のみという形で、施工はそれほど難しくないものなのですが、今回は補修ということで避けられない問題がありました。それは、既存のくつ石(基礎)とホゾ穴です。これらに合わせるためには、柱の転び角度を逆算で出さなければなりません。このようなケースの場合には少し手間がかかります。

工程その一

 現場で細かくすべての寸法を測り、作業場へ戻ってからベニアに原寸図を書きます。四方転びの場合柱がひし形になるため、その度合いを計算します。

工程その二

 原寸図が出来たら墨付け、刻みをします。既存のくつ石(基礎)には40mm程度のホゾ穴が適当に掘られているため、1本1本柱のホゾを、この穴に合うように寄せながら造ります。四方転びの場合は柱の根元に対して外へ出ていく力がかかるので、先行きの根腐れの時に柱が外へ開かないように、ホゾの外角にステンレスのボルトを打ち込みました。

工程その三

 加工がすべて終了したあと、大工が現場で仮組をします。楔(くさび)も仮打ちした時点で曳家さんに上物(小屋・屋根部分)を下ろしてもらいます。水屋でも上物の重さは2トン以上ありますので、少しずつ慎重に下ろしていきます。

工程その四

 柱のホゾがホゾ穴に入り始めたら、あとは自分の重みでどんどん下がっていきます。

工程その五

 上物が下がりきった時点で楔(くさび)を本締めして、楔の長さのバラつきを切って整えます。これで大工仕事は終了です。

完成

 最後に瓦と銅板補修をして、すべての工事が終了となりました。

水屋の再生2

この工事の始まりも、お付き合いのある材木屋さんからの電話でした。
「この前の台風で神社の水屋が倒れちゃって、元々やっていた大工さんは高齢だから出来ないと言われたんです。さらに、他の工務店さんにも出来ないと言われちゃって・・・。」
この前(2018年秋)の台風は大きいのが2回も来ましたからね・・・。なかなかお声がかかるような仕事ではないですし、本当に困っていらっしゃったので、お請けすることにしました。
現場へ倒れた水屋を見に行き、いろいろとお話を聞いてきました。(見に行ったときには少し片付けてあり、細かいところは解らないところもありましたが。)
元々100年は経っていたのでしょうか、柱の根元が腐っていて、補修されていました。(根接ぎのように根本的な補修ではなく、根腐れ部分を板で囲み、板金で巻いていました。)
長年にわたり雨風にさらされ弱くなっていたところに台風が来て、倒れてしまったのだと思います。


■復元しつつ新築設計

まず、倒れた屋根部分の寸法を採り、写真を撮りながら解体しました。
また、建っていた頃の写真が数枚残っていたため、解体するときに撮った写真と合わせながら、昔の水屋の図面を描きました。
なお、基礎の石は、そのままです。

施主のご希望で柱は6寸(18cm)角というのは変えないとのことでした。
斗組(ますぐみ)や蟇股(かえるまた)は使えれば使って欲しいということでしたが、倒れたときに壊れてしまったものもあり、補修して新しい材料に合わせて加工し直さないと使えません。
そうなると、時間とお金がたくさん必要になります。そのため、斗組などは使わないことになりました。
しかし、斗組をなくすと6寸角の柱の上に幅3寸5分(10.5cm)の桁がのります。同じ幅なら違和感はないのですが「柱は6寸がいい」とのこと・・・。
格好良いものが造りたい、しかし費用はかけられない、と考えに考えて、舟肘木を入れることにしました。
頭でイメージし、CADで描いてもバランスはとれました。


■原寸図を描く

全体のバランスの再確認、細部の納まりの確認のために1/1スケールの原寸図をベニアに描きます。
柱が垂直ではなく、内側に転ぶ「四方転び」になっているため、柱がひし形になり、垂直な長さ(高さ)と柱の長さが変わります。
そのため、柱の展開図を描きました。また、破風廻りも原寸に合わせて製材するので、破風廻りの原寸も描きました。

■墨付け・加工

天然乾燥の大きい材料がなかったため、丸太を人工乾燥にかけていきます。
しかし、割れるんです。背割りを入れても、違うところで割れるんです。
その難しいところをなんとか用意してもらい、失敗したら材料を探すのに時間がかかり工期が、というプレッシャーの中、慎重に加工していきました。
四方転びでは柱の根柄の外側に力がかかるので、根腐れしても踏ん張れるように、そこにステンレスのボルトを入れました。

■現場

加工がすべて終わると現場にて上棟していきます。
破風を受ける桁の部分や茅負いなど、現場にて加工しながら、どんどん組み上げていきます。
ほとんどが、化粧で見える部分なので慎重に、丁寧に扱いながら、仕上げていきます。

■板金工事

木工事が終われば板金工事です。
銅板で屋根を葺き、棟飾りをつけて完成です。
82886